「明日の授業、まだ何も準備できていない」
正規教員時代、平日の夜10時にこんな独り言を言う日が、ずっと続いていました。導入の問いをどう作るか、子どもにどう説明するか、スライドをどう組むか。考え始めるとあっという間に時間が溶けていきます。
いまは非常勤講師として小学生の算数を担当しつつ、オンラインスクールでも子どもたちに教えています。授業の準備時間は以前より明らかに短く、それでいて「導入や説明をわかりやすくできた」と感じる日が増えました。
大きな理由のひとつが、ChatGPTをはじめとしたAIを授業準備に使うようになったことです。
この記事では、私がふだん実際にやっている「ChatGPTでの授業準備の使い方」を、3つの具体例とプロンプト例とあわせて紹介します。AIをこれから触ってみたい先生にとっての、最初の一歩になればうれしいです。
AIを授業準備に使うようになった背景
私がAIを授業準備に取り入れ始めたのは、「自分の思考を整理したい」、「子どもに合わせた言葉に変えてくれる相棒がいるとラクだ」と感じたのがきっかけです。
授業準備は、知識をそのまま並べる作業ではありません。教える内容を、目の前の子どもに伝わる言葉に翻訳し直す作業です。これがいちばん時間がかかります。
ChatGPTは、その「言い換え」をかなり速く手伝ってくれます。ゼロから考えるよりも、AIに下書きをもらってから自分の感覚で整える方が、結果として早くて、しかも質も上がるという感覚があります。
難しい設定はいりません。まずは無料で使える範囲から、試してみるだけでも、できることはたくさんあります。
具体例1:授業の導入と「めあて」を考える
授業の最初の5分は、その日の学びの空気をつくる大事な時間です。同時に、私がいちばん頭を悩ませていた部分でもありました。
たとえば算数で「割合」を扱う授業。教科書通りに入っても、子どもの目はあまり輝きません。そこでAIに、こんなふうに相談します。
使ったプロンプト例(導入アイデア)
小学生の算数「割合」の単元を扱います。
子どもが「身近だ」「面白そう」と感じる導入の場面を3つ提案してください。
クラスでよくある会話やシーンを使ってください。
教師のセリフ例もつけてください。
こう書いて送ると、たとえば「クラスの好きな給食ランキング」「兄弟でお菓子を分けるときの不公平感」「セールの『〇%引き』の話」のような切り口を、教師のセリフ例つきで提案してくれます。
もちろん、そのまま使うわけではありません。「うちのクラスの子なら、これは響きそう/これは響かなそう」と取捨選択する作業は私の仕事です。それでも、ゼロから考えるのと、3案から選ぶのとでは、頭の使い方がまったく違います。
「めあて」の言葉づくりにも
めあての文言も、AIに3〜5案出してもらうと一気にラクになります。
算数「割合」の本時のめあてを、次の条件で3案作ってください。
・主語を子どもにする
・「〜できるようになろう」の形にする
・1文20字以内
こうすると、その中から自分のクラスに合う形を選びやすくなります。
具体例2:子ども向けの説明に言い換える
教える内容を、教える相手の言葉に変える。ここが授業準備の核心です。
たとえば「1あたりの大きさを揃えて比べる」という発想。大人にはピンとくるけれど、子どもに同じ言葉で伝えても、ほぼ伝わりません。
使ったプロンプト例(説明の言い換え)
「1あたりの大きさを揃えて比べる」という発想を、
小学生が初めて聞いてもイメージできるように言い換えてください。
日常生活の例え話を3つ用意してください。
それぞれ80字以内でお願いします。
するとAIは、「同じ大きさのコップに飲み物を入れて比べる」「同じ枚数の折り紙を配って色の比率を見る」のような、子どもが知っている世界に引き寄せた例え話を出してくれます。
このとき大事なのは、「学年に合うかどうか」「うちのクラスに伝わる言葉かどうか」を自分の感覚で選ぶことです。AIは引き出しが広いだけで、目の前の子どもを知っているのは私たちだけです。
具体例3:スライド・ワーク・教材のたたき台を作る
「ゼロから作らない」というのが、私がAIを使ううえで一番大きく変わった発想です。
以前は、スライドも、配布プリントも、振り返りシートも、全部ゼロからCanvaやKeynoteで作っていました。今は、まず「骨組みのたたき台」をAIに作ってもらい、それを自分の感覚で整える流れにしています。
使ったプロンプト例(スライド骨子)
次の条件で算数「割合」の授業スライドの骨子を作ってください。
・1コマ45分
・導入5分・説明15分・演習15分・振り返り10分
・各スライドのタイトルと、1スライドあたり3行までの要点を出してください
・最後の振り返りスライドは、子どもが自分の言葉で書ける形式にしてください
AIが出してくる骨子は、もちろん完璧ではありません。でも「全体の流れの叩き台」としては十分使えます。私はその下書きを見て、「ここの説明はもう少し噛み砕いた方がいい」「演習問題はもう1問増やそう」と整えるだけで、スライド1コマ分が完成に近づきます。
配布プリント・振り返りシートも同じやり方で
配布プリントの問題案、振り返りシートの問いかけ案、保護者へのお便りの下書き。「ゼロから生み出す」から「下書きをもらって整える」に切り替えただけで、準備時間の感覚がはっきり変わりました。
以前は「何から作ればいいんだろう」と止まっていた時間が、今は「どれを選んで整えようか」と考える時間に変わりました。
使ってよかったこと
3つの具体例を通して、私がいちばん良かったと感じているのは次の点です。
- 授業準備の「最初の一歩」が軽くなった
- 選択肢が広がるので、「いつものパターン」に固定化されにくくなった
- 言い換えや例え話のストックが、自分の中にも増えてきた
- 準備に追われない分、子どもの様子を見る余裕が増えた
AIは私の代わりに教えてくれるわけではありません。でも、私が「考える時間」と「整える時間」のうち、考える時間を圧縮してくれます。整える時間は変わらず私のもので、ここに先生の個性が出るのだと思います。
逆に、AIに任せきりにしてはいけないこと
便利な一方で、AIに丸投げしてはいけない場面もあります。私が実際に気をつけているのは次の3点です。
1. 子ども一人ひとりの実態を見ること
AIは「平均的な小学生」を想定して言葉を選びます。でも、目の前の子に響く言葉かどうかは、私たちにしか分かりません。最後の選び取りは必ず自分でやります。
2. 事実関係の確認
AIは堂々と間違ったことを言うことがあります。歴史の年代、用語の定義、最新の制度。教材で扱う情報は、必ず教科書や公的サイトと突き合わせて確認してから使います。
3. 「教師の判断」の部分は譲らない
子ども同士のトラブル対応や、保護者対応の文章なども、AIに下書きを出してもらうことはあります。でも、最終的に「どう伝えるか」「どこを言わないか」の判断は、必ず自分で行います。AIは便利な相棒で、決して代わりではありません。
個人情報・著作権・学校現場での注意点
学校で使ううえで、いちばん気をつけたいのが情報の扱いです。私が守っているルールはシンプルです。
- 児童の名前・個人情報・家庭情報をAIに入力しない
- テスト答案・通知表・要録のデータをそのまま貼り付けない
- 著作権がある教材原本(教科書本文・ワーク全体)をそのまま入れない
- 校内のルール・自治体の方針を確認したうえで使う
「子どもの名前をA、B、C……」と仮名にする、「ある児童の作文の傾向」のように一般化する、といった工夫を入れるだけで、ぐっと安全に使えるようになります。
学校現場でのAI利用方針は自治体によって異なるので、ご自身の勤務先のガイドラインも必ず確認してください。
まずは「ひとつの作業」だけAIに相談してみる
AIに慣れるためのコツは、たぶんひとつだけです。
「自分が今いちばん面倒だと感じている作業を、1つだけ相談してみる」
私の場合、それは「導入の問いを考えること」でした。最初はうまくいかない返答もたくさんありました。でも、何度かやり取りしているうちに、「こう聞けばこういう答えが返ってくる」という感覚が自然とつかめてきます。
AIは、まじめに勉強して習得するものというより、何度か話しかけて慣れるもの、というのが私の正直な実感です。明日の授業の準備に少しだけAIを混ぜてみる。それくらいの軽さで、まず1回だけ試してみてください。
同じ「AIで授業準備が変わった話」については、別の角度から書いた「AIで教材を作ったら授業が変わった話」もあわせて読んでみてください。今後は、「教員が今日から使えるAIツール5選」についてもまとめる予定です。
無理せず、ご自身のペースで、AIとの距離感を見つけていきましょう。


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